Opinion : 「安全保障問題に対する関心」に対する答え (2017/8/21)
 

最初は別のネタで書いていたけれど、なんかシャキッとしないので仕切り直し。で。

自分も何回か出演したことがある「週刊安全保障」が、次の金曜日で最終回ということに。実は 8/5 に話を聞いていて、解禁になるまで黙っているのが辛かった。自分の周囲に、これを楽しみにしている方が何人もいらっしゃるから。

その「週刊安全保障」に関しては、「軍事問題をニュートラルに扱ってくれる希少な番組」等の視聴者コメントがあったと記憶している。もっともこれは、一般的な新聞・テレビにアレな内容の報道がままあるので、相対的に目立ってるんじゃないの、という気もする。

過去に何回も書いているように、各報道機関が「不偏不党・中立公正」という旗を降ろせば解決する問題だろうと思えるけれど、それはまあ、いわない方向で。

おっと脱線した。番組の立ち位置がニュートラルかどうかは、今回の本題ではないのだった。


以前と比べると、安全保障問題に関する関心が高まっているのではないか、と思わされる感触はあって、その一例となる話はしばらく前に書いた。関心を持ってくれるのはいいんだけど… ただし。

そこら辺で、誰も彼もがウェポン システムのケイパビリティ () や性能の優劣について口角泡を飛ばすようになったら、それはどうなんだろうか。なんてことを考えてしまった。それはそれで、振り切れすぎ。

「週刊安全保障」は基本的に「好き者」が見る番組だと思われるので、そういうところではウェポン システムのケイパビリティ () の話をしたっていい。否、ガンガンやっていい。でも、それは「普通の人」に知ってもらいたい種類の情報とは違うと思う。

たとえば、「週刊安全保障」でも何度となくやっている、中国海警の公船による領海侵入、ないしはそれに至る手前の事案。ついつい過激で声が大きい人が目立つから、「撃沈しろ」を筆頭にして左右両極端に振り切れすぎ。

でも、よく知らない人がそういう「過激な意見」に釣られるのがいちばん怖い。どうして海上自衛隊ではなく海上保安庁が出るのか、領海と接続水域と排他的経済水域 (EEZ : Economical Exclusive Zone) の違いは何か、領海内における無害通航権とは何か。

本来なら、こういうことを報道機関がちゃんと解説しないとダメなんである。それをやらないで、日々のニュースで「中国の公船が接続水域に入った」だけやっていたら、EEZ と接続水域と領海の区別もつかない人が「撃沈しろ」と威勢のいいことを吹き始める。それは決して良い方向ではない。

某新聞社みたいに「EEZ と接続水域と領海の違いを説明しても数字がとれないから却下」なんていってるようでは、報道機関を標榜する資格はないよ ? そういうことこそ「中学生でも分かるような記事を書く」必要があるのではないか ?

自分のフィールドに近いところの話だと、武器輸出三原則がらみ。ここではなぜか「右に極端」の人と「左に極端」の人が奇妙に一致していて、どっちも「輸出を解禁すれば日本製の武器が海外にどんどん出て行く」と状況認識が現実離れしている。

その一方で、COTS (Commercial Off-The-Shelf) 化、情報通信技術の普及、軍民両用技術の広がりが「武器」の定義を変えてしまっている現状が、果たしてどこまで知られているのか。

例の日報問題にしても、文書管理や保全の体制だけでなく、それよりも根源に近いところにある「戦闘地域ではないと言い張って PKO を出すことの是非」こそが本来の問題だったはずなんである。


とかなんとか書き連ねているうちに、なんとなく見えてきたのは、「なにかしら安全保障がらみの争点が浮上したときに、判断の参考になるような情報」が大事なんじゃないかなあ、ということ。過去や将来とはまた違うかも知れないけど、これが目下のところの落としどころ。

別に、誰も彼もがウェポン システムのスペックを諳んじる必要なんてないし、個別のウェポン システムごとに導入の是非で口角泡を飛ばし合う必要もない。

左右両端に振り切れすぎた話に引きずられないでくれればいいし、そのための参考になる「現状はこうだ」「本当に重要なポイントはこれだ」といった情報こそが、「安全保障問題に対する関心」に対する答えなんじゃないのかなあ。

第一、電車に乗ったらそこここで JDW や IDR を読んでいる人がいる、なんてことになったら却って気持ち悪い (ないない)

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